今回は、春の足音がほんの少し聞こえ始めた3月中旬、奈良県の吉野へ日帰り旅をしてきました。
行きは通常の近鉄特急でのんびりと向かい、吉野山界隈をゆったりと散策。そして、帰りはずっと憧れていた観光特急「青のシンフォニー」に人生で初めて乗車するという、ちょっと特別な一日。
吉野といえば全国的に有名な桜の名所ですが、3月ではまだ蕾がかたく閉じたまま。それでも、その分、静寂に包まれた吉野の風景や空気をじっくりと味わうことができて、非常に心に残る旅になりました。
■ 旅の始まり:近鉄特急で吉野へ、小さな冒険の出発
この日は朝からどこかワクワクするような気持ちで、大阪阿部野橋駅へ向かいました。
春の訪れを目前に控えた3月の街には、まだコートが手放せない冷たい風が吹いていましたが、旅の始まりにふさわしい、気持ちの良い朝でした。
近鉄特急に乗り込み、窓側の席に腰を下ろします。発車と同時に聞こえるレールの音、そして次第にビル街から山々の景色へと変わっていく車窓に、心が解き放たれていくような感覚に包まれました。
車内では持参したコーヒーとおやつで軽く朝食をとりながら、1時間半ほどの列車旅を満喫。道中はどこか静かで、まだ春本番には早い淡い風景が広がっていました。
■ 吉野山の散策:春待ちの静けさと、歴史に出会う
吉野駅に到着したのはちょうど昼前。ここからはロープウェイに乗って中千本まで登ります。
車内から眺める山の風景は、まだ花の色は見られないものの、あちこちに春の兆しが見え隠れしていて、なんだかとても幻想的でした。
ロープウェイを降りた先には、しんとした空気と、ほのかに香る杉の匂い。そして、凛とした佇まいの歴史ある建物たち。金峯山寺の壮大な本堂や、吉水神社から見下ろす吉野山の風景に、思わずため息がこぼれました。
観光客の姿も少なく、どこか“吉野を独り占めしている”ような贅沢な時間。静けさの中で、自分自身と向き合えるような、不思議と心が洗われるような気持ちになりました。
■ うどん屋で昼食:地元に根づく味に癒されて
歩き疲れた頃に立ち寄ったのは、中千本エリアにある昔ながらのうどん屋さん。外観は素朴で、暖簾をくぐると木のぬくもりが感じられるようなあたたかな店内。地元の方や登山帰りの人がぽつぽつと訪れていて、なんとも落ち着く雰囲気でした。
注文したのは、温かいゆばうどん。運ばれてきた瞬間、湯気とともにふわっと香る出汁の香りに、思わず顔がほころびます。口に運ぶと、優しい味わいのゆばが冷えた体が内側から温まっていくのを感じました。
旅の途中でこういう「ほっとする味」に出会えるのも、ローカル旅の醍醐味ですね。
■ 帰路は「青のシンフォニー」:感動の観光列車初体験!
散策と食事を楽しんだあとは、いよいよこの旅のクライマックス――観光特急「青のシンフォニー」に乗車!
吉野駅のホームに現れた青と金の美しい車体は、まさに“動くクラシックホテル”のような雰囲気をまとっていました。
列車に乗り込むと、そこには予想をはるかに超える重厚感と洗練された空間が広がっていました。
深い木目調のインテリア、落ち着いた照明、革張りのソファ…すべてが計算されたデザインで、まさに「上質な時間を過ごすための列車」という印象。
観光列車に乗るのは今回が人生で初めてだったのですが、車内の空間に足を踏み入れた瞬間、「これが観光列車というものか…!」と感動で胸がいっぱいになりました。
■ サロンカーで味わう地酒とクラフトビール:大人の贅沢
列車がゆっくりと走り出すころ、私は車内のサロンカーへ。
そこで注文したのが、奈良の地酒を3種類味わえる日本酒飲み比べセット。それぞれ風味が異なり、ひと口ひと口に“土地の味”が込められているような深みがありました。
日本酒を楽しみながら、窓の外に広がる早春の山々を眺める時間――それはまさに、大人だけに許された至福のひととき。観光列車って、ただ移動するだけじゃなく「旅の一部そのもの」なんだと実感しました。
さらにその後、もうひとつの楽しみとして青のシンフォニー限定のクラフトビールも注文。コクがありながらも飲みやすく、後味にほんのりと香ばしさが残る味わいで、旅の終わりにぴったりの一杯でした。
■ 終わりに:桜のない吉野で感じた、静けさの美しさ
桜の時期にはまだ早く、花は咲いていなかった3月の吉野。けれど、その静けさや素朴な空気感が、逆にとても心に響く旅となりました。
そして、初めて乗った観光特急「青のシンフォニー」は、想像以上の体験をもたらしてくれました。列車の中で過ごす時間が、こんなにも豊かで、贅沢で、感動的なものになるとは思ってもいませんでした。
「また乗りたい」ではなく、「またあの時間に戻りたい」と思わせてくれるような、そんな特別な列車。今度は、桜が満開の季節にもう一度訪れて、まったく違った景色と空気を味わってみたいと思います。